美容室の予約が面倒すぎる
美容師でも思う。
「美容師・美容室の予約が面倒すぎる」。
予約手段がネットか電話か、そういう話ではない。
「①担当者を決め、②メニューを決め、③日時を決める。」
書き出せばごくシンプルなはずのこの手順が途方もなく思えて、面倒なのだ。
メニューを決めなければ予約できない、あのシステムにいつも疑問を感じる。
そもそもメニューって「希望の髪型を叶えるための手段」じゃないのか、
それをお客様が一人で考えて選ばなければいけないってどういうことだ、と。
例えば病気や怪我をしたときに、病院に行く前に治療方法を自分で決めるだろうか。
その道に携わるでもない限り、原因にしろ治療方法にしろ調べる情報源の正誤判断さえ難しいし、患者が自分で選んだ治療法で本当に本人が希望している状態になれるかどうか、プロの方が分かっているはずだ。
もっといい方法があるかもしれないし、一人ひとりの状態に合わせて提言してくれるかもしれない。
ただでさえ「不調」という悩みがある状態のところ、実際に診てもらう前に治療方法の選択まで自分でしなければならないとしたら、安心や安全とは程遠い不満・混乱・事故が横行してしまう。
今日の美容師の予約方法はまさに、そんな状態を招いていないだろうか。
どうしてあんな、お客様にメニュー選択を一任する予約システムなのだろうか。
鶏と卵な議論を一部掻い摘んで問題を大雑把に捉えると、低価格の商品はより多く売らなければ利益が出ないし、より多く売るためには効率が必要だし、美容師の商品が「直にお客様に施術する」という人力一辺倒である限り、1日の限られた営業時間内でより多くのお客様をご案内しなければならない。
そしてより多くのお客様をご案内するためには、お一人あたりにかかる時間を予め把握し、かつ最小限にせざるを得ない。
お客様に予約時にメニューを選んでもらうのは、こういう事情に依るところが大きいと思う。
だけどこれらはあくまでも美容師自身・サロン自身の事情であって、そのしわ寄せが一見便利なようで融通の効かない予約システムとして、却ってお客様に手間や混乱や美容師に対する不信感をもたらしていることに、割り切れない心地がする。
美容師としても一顧客としても。
しかも前述の事情のるつぼにハマった美容師はスケジュールにどんどん余裕がなくなり、
お客様一人の罪のないメニュー追加でそれが瓦解する。
瓦解したスケジュールは他のお客様の滞在時間延長に直結し、後ろの時間帯のお客様ほどその影響を受ける。
それがわかっていてもやはり、「低価格・より多く・商品が技術だけ」の法則から抜けられず、効率化の結果がお客様の「満足できない体験」を増やしているように思う。
美容室に行こうと思った時点で、お客様には解決したい悩みがある。
その悩みを解決する手段としてメニューがある。
何のメニューを行うかを決めるには、そのメニューで本当に自分の悩みが解決できるかを知らないと選べないし、知るには専門用語ばかりで先にその意味を知らなければ情報の正誤さえ判断できないし理解し辛い。
そもそもネットなど情報媒体によって用語の意味が微妙に違っているし、美容師にだって、学んできた過程が違うぶん技術に対していろんな意見の人がいる。
そんな中で、当日のメニュー変更や事前相談という受け皿さえ用意せずに
「自分の悩みに対する解決方法(メニュー)は自分で考えて決めてね。
ただし選んだメニューでご希望を実現可能かどうかは、当日カウンセリングするまで分からないよ。」
とでも言うような予約システムは、美容師側にそんなつもりがないとしても、やはり美容師に対する不信感を募らせる結果を招いてしまう。
お客様の立場の方にも美容師の立場の方にも誤解しないで欲しいのは、私は「どんなに低価格だろうとどんなに多忙だろうと、当日のメニュー変更にも事前のカウンセリングにも対応すべきだ」ってことを言いたいわけじゃない。
それは各々の経営方針によるものだし、よりお客様へのサービスを充実させるならまず人件費を上げるなり時間的に余裕のある働き方を提示しないと、ただでさえ業界全体でブラックな労働環境な中、従業員は納得しないと思う。
それに人件費を上げるためには、恐らく価格を上げるか、支出で大きいところの家賃を下げるかの問題になってくる。
予約システムひとつ変えるのに、あちこちでテコ入れが必要な意外と根が深い問題だと思う。
私が美容師としても、美容に限らない他業種における一顧客としても理想だと感じるのは、何か悩みがあるときにノープランでもとりあえず会いに行ける人や環境。
体の調子が悪いとき、新しい服が欲しいとき、家で作れないご飯を食べたいとき、髪に不調を感じるとき、元気や勇気が欲しいとき、そこへ行くまでや行ってからの煩わしさを何も考えず、心理的には手ぶらな状態で会いに行けばなんとかしてくれて、いつの間にか元気になって帰ってこれる、そういう場所や人が欲しいし、自分もそうでありたいと思う。
私が尊敬する美容師も、デザイナーも、料理人も、先生も、思えばみんなそうなのだ。
だからいま余計に、これからの働き方について考える。
たかが予約だけど、お客様がご来店前から不必要に混乱してしまうような、美容師が美容師の首を締め続けてしまうような悪循環を招くシステムを続けていても、得をしているのはオンライン予約サービスを提供している大手のポータルサイトくらいで、実際にはお客様にも美容師にも良い結果はもたらされない。
「担当者は誰でもいいしカウンセリングも対話も提案も必要ない。このメニューで言った通りにして欲しい」
で、お客様も美容師も両者が納得するならそれでいい。
けどもしそうでないなら「たかが予約」と言わず、例えば施術とは別日のカウンセリングサービス・高めの料金設定などは、お互いに納得できる結果を生むための基準になるのでは、と思う。
美容室の予約が面倒すぎる。
お客様の美容師不信も、美容師の自縄自縛も、ここから始まっているのかもしれない。