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メディアやネットや美容室でやり取りされる、業界用語の数々、
「もしもそれらを使いこなせたら簡単かつ正確に髪型の希望を伝えられるのでは?」
美容室への不安や苦い経験を抱える方の中には、そう思って準備をしてくださる方もきっと少なくない。
だけど少し立ち止まってみると、「お客様が用語をどれだけ知っていてどれだけ正確に理解しているか」が、
お客様の希望が叶うかどうかを左右するなんて、どうにもおかしい。

個人的には、髪型のオーダーのためにお客様が専門用語を理解しておく必要はないと思うし、
自分でもできるだけ使わないようにしている。
理由は単純で、言葉は他にもあるからだ。

他人同士、お互いにとって認識の齟齬が小さい言葉を探して話せば、
わざわざ正確に伝わるか否かハイリスクな言葉で会話をする必要はないように思う。
専門用語は、あくまで美容師間での共通語としてあればいい。

お客様は「美容理論のプロ」にならなくていい

誰もが簡単に情報の発信・受信ができる世の中、毎日あちこちでいろいろな言葉を知る機会がある。
髪に関する言葉も然りで、その中には教科書に載っているような基本用語もあれば、個人が命名したであろう造語もある。
業界人が監修しているわけではなさそうな情報では、専門用語を使っているのに内容が微妙に誤っていそうなこともあるし、
例え美容師が発信している情報でも、検索時に引っかかるようわざと内容とは意味が違う言葉を使っていることもSNSでたまに見かける。

「あっちではこれをAって言ってたのに、こっちではBって書いてある、この人はCって言ってる」
スタイル一つ技術一つ、元は同一のものに対して様々な呼び名が普及している。

一体どれが正しくて何が間違っていて本来の意味や定義は何なのか、どの言葉を使えば目の前の美容師に希望を伝えることができるのか、
調べるほどに混乱して、美容室へ行く前からどっと疲れてしまいそうだ。
もしも専門用語や業界用語、技術名やメニューの意味をお客様があらかじめ知っておかないと美容師との会話やカウンセリングが成り立たないとしたら、
それは美容師側に課題があるように思う。
美容師の道を選ばなかった方が「美容理論のプロ」になる必要はないのだから。

敢えて専門用語を使わないことのメリット

なぜ専門用語やそれっぽいものを使っても伝わらないのか、
他にどう伝えればいいのか、第三者視点の他業種の言葉をお借りして紐解いてみたい。

「オープンサンド」、最近個人的に初見だったこの言葉が、飲食業界では多くの料理人に通じる基本の用語なのか、
どれくらい普及・定着しているのか、この道に詳しくない私には分からない。
それでも例えば「簡潔に伝えたい、きっと知っているはず、そのほうが分かりやすいだろう」と考え、
料理を生業とする方に「オープンサンドを作ってほしい」と一言オーダーするとしたら。

もしも造語や流行語なら先方が知らなくても無理はないし、
知っているとしても両者が認識しているものは「オープンサンドA」と「オープンサンドZ」くらい大きく違うかもしれない。
そしてもしプロの基本用語だとしたら、プロにとっての「正しさ」があるだろう。
例え先方が「正しく」作ってくれてそれが本来の定義通りだとしても、オーダーした側にとっては自分の意図と異なっていればそれはもう「違う」ものだ。
いずれにしても言葉一つに委ねて希望を伝えるのは簡単なようでいてそうでもなく、
「自分と相手にとってのオープンサンドは定義が違う」といことを大前提で、認識のすり合わせをしていくことが重要なのは変わりない。

では他にどんな表現がありそうだろう。
例えば「スライスしたパンの上に色々な具材を乗せて食べたい」というのはどうだろう。
もっと幅を持たせるなら、「意外性のあるサンドイッチを食べたい」とか
「パンと合いそうな具材を、お任せでアレンジして」という表現でもいいかもしれない。
こんな風に一つの単語に囚われず、重要視している点をシンプルに伝えるメリットはいくつもある。

    • 「外してはいけない点とそうでない部分」が作り手に伝わりやすい
    • 的を得たまま遊び心を加える余白もあり、個別対応してもらいやすい
    • 一人では想像しなかった新たな視点や提案を引き出せる
    • 結果的に時間短縮にもなる

「そういうことなら専門用語を知っておかなくてもいいのでは?」とそう思うだろうか。私もそう思う。
美容師側にカウンセリングをおろそかにしない体制と考えがあれば、
お客様がオーダーの方法について悩む必要なんてなくて、気持ちは手ぶらで美容室へ行くだけでいい。

専門用語を使わないことは一見遠回りに思えるかもしれないけれど、かえって楽に、楽しい経験と結果を得られるかもしれない。

言葉はあくまでも手段のひとつ

伝えたいことや知りたいことがお互いに伝わるのなら、
それが専門用語でも造語でも擬態語でも、絵でも写真でも実物でもいい。
重要なのは、お客様と美容師の他人同士が目的に向かって共通認識を持つことと、そのための体制を美容師が用意すること。
伝え方がわからないという不安に阻まれて美容室へ行くのが億劫になり、
髪にプチストレスを感じながら日々を過ごすくらいなら、
「なんとなく困ってるけどどうしたらいいのか分からない、
調べるのもメニューを選ぶのも面倒だからとりあえず相談に来た」
そんなふうに、悩むところから全部を美容師に丸投げしてもいい。

美容師へのオーダー方法、案外「この人とならリラックスして話せそう、気楽に会いに行けそう」という直感が、希望が叶う最短距離かもしれない。

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